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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6737号 判決 1998年9月29日

大阪市北区天神橋三丁目二番

原告

株式会社アド・コミュニケーション

右代表者代表取締役

大西良隆

右訴訟代理人弁護士

川下清

右補佐人弁理士

柳野隆生

大阪市中央区高津三丁目一五番五号

被告

株式会社大阪有線放送社

右代表者代表取締役

宇野元忠

東京都港区芝五丁目七番一号

被告

日本電気株式会社

右代表者代表取締役

金子尚志

右両名訴訟代理人弁護士

野村晋右

茂木龍平

松井衡

右補佐人弁理士

鈴木康夫

主文

一  被告株式会社大阪有線放送社は、別紙物件目録(一)記載のカラオケ装置を製造、販売してはならない。

二  被告日本電気株式会社は、別紙物件目録(一)記載のカラオケ装置のうちコマンダー(UK-CM二〇)を製造、販売してはならない。

三  原告の被告日本電気株式会社に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、別紙物件目録(一)記載のカラオケ装置を製造、販売してはならない。

第二  事案の概要

本件は、実用新案権に基づいて侵害行為の差止めを求めた事案である。

一  前提となる事実

1  原告の実用新案権(争いがない。)

原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

登録番号 第二〇六六一六八号

考案の名称 カラオケ装置

出願日 昭和五九年一〇月一九日(実願昭五九-一五八五五七号)

出願公告日 昭和六三年一二月二一日(実公昭六三-四九八八四号)

登録日 平成七年六月二三日

実用新案登録請求の範囲

「 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。」

2  本件考案の構成要件(争いがない。)

本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

A 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、

B 背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、

C 前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、

D 該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、

E 伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

F カラオケ装置

3  本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は、別添実用新案公報(甲一)及び平成元年一〇月三一日付手続補正書(乙四)の記載によれば、次のとおりである。

伴奏音楽及び歌詞映像が記録された記録媒体と、動画像である背景映像が記録された記録媒体を別々のものとし、歌詞映像と背景映像を別々に管理して、適宜、受像画面全面に及ぶ背景映像をそっくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。しかも、背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落するおそれが全くない上に、背景映像には全く手を加えていないから著作権法上の問題発生もなく、業務用カラオケ装置として適している。

4  被告製品の製造販売(争いのない事実と甲六ないし九、弁論の全趣旨)

被告株式会社大阪有線放送社(以下「被告大阪有線」という。)は、別紙物件目録(一)記載の器材名・型番から構成されるカラオケ装置「ユーカラⅡ」(以下「被告製品」という。構成については争いがある。)を平成八年三月から製造、販売している。被告日本電気株式会社(以下「被告日本電気」という。)は、被告製品のうちコマンダー(UK-CM二〇)を製造して、被告大阪有線に販売、供給している。

ただし、別紙物件目録(一)記載の被告製品のうち基本ユニットについては、別途スピーカー、マイクロホン、モニター等が組み合わされてカラオケ装置を構成する被告製品専用のユニットである。被告製品のうちコマンダー(UK-CM二〇)は、被告製品の生産にのみ使用される(弁論の全趣旨)。

なお、被告日本電気が被告製品のうちコマンダー以外の器材を製造、販売している事実を認めるに足りる証拠はない。

5  本件考案の出願経過(乙三の1ないし3、四、五、七ないし一〇、弁論の全趣旨)

本件考案の実用新案登録出願(以下「本件実用新案登録出願」という。)に対し、特許庁は、昭和六三年六月三日付で本件考案が進歩性を有しないとの拒絶理由を出願人に通知した。同通知を受けて、出願人は、同年七月二〇日、出願時の願書に添付した明細書全文及び図面を補正した(以下、右補正を「昭和六三年補正」といい、同補正後の明細書を「公告時明細書」という。)。特許庁は、同年八月二六日、出願公告決定をし、同年一二月二一日出願公告がされた。右出願公告を受けて、平成元年三月一四日から同月二〇日にかけて株式会社東芝ほかから合計五件の異議申立てがあった。出願人は、これらの異議申立てを受けて、同年一〇月三一日付手続補正書を提出し、公告時明細書を補正した(以下、この補正を「平成元年補正」といい、右補正後の明細書を「本件明細書」という。)。これに対し、特許庁は、平成四年一月一四日、東芝の異議申立てに理由があるとの決定をし、拒絶査定を行った。右拒絶査定に対し、出願人は、同年四月七日原査定取消し及び平成元年補正後考案の実用新案登録決定を求めて審判を請求した。特許庁は、平成七年一月二五日、原査定取消し及び平成元年補正後考案の実用新案登録を認める審決をし、実用新案登録(以下「本件実用新案登録」という。)に至った。

二  争点

1  被告製品の構成の特定

2  被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか。

3  本件実用新案権には無効事由があるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告製品の構成の特定)

【原告の主張】

被告製品の構成は、別紙物件目録(一)記載のとおりである。

【被告らの主張】

被告製品の構成は、別紙物件目録(二)記載のとおりである。

二  争点2(被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか)

1  被告製品は、本件考案の構成要件Aの「伴奏音楽と歌詞映像を『一体的に』記録」する構成を具備するか。

【被告らの主張】

被告製品では、伴奏のデータであるMIDIコードデータと歌詞に関するキャラクタコードデータは一体的に記録されているわけではなく、読み取りも別々に行われる。したがって、右の点で被告製品は本件考案とは異なる。

原告は、本件考案における「一体的」とは、「伴奏音楽と歌詞映像の再生タイミングを関連づける等して両データを『一体的』に取り扱うようにする」ことを意味すると主張する。しかし、本件考案における「一体的」がこのような意味であることを示す、あるいは示唆する記載は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明並びに図面のいずれにも一切存在しない。本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し」との記載はあるが、実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明及び図面のいずれにも、そのための構成や機構については何ら記載されていない。また、「一体的」という表現が、この「伴奏音楽を演奏すると同時に…歌詞映像を…写し出」すための構成ないし機構を表しているとの記載も明細書にはない。したがって、「一体的」の意味を通常の意味ではなくて、原告の主張のように解する根拠は存しないのであり、本件考案における「一体的」は、通常の意味、原告のいう「文字通り『一体的』」の状態を意味すると解するのが合理的である。すなわち、本件考案における「一体的」は、「一体不可分な状態で渾然一体となっていること」あるいは「一つになって分けられない関係にあること」(広辞苑第三版)を意味すると解すべきである。

被告製品では、歌詞のデータであるキャラクタコード及びフォントデータと伴奏のデータであるMIDIコードデータとは、このような「一体的」な状態で記録されていない。

【原告の主張】

被告らの右主張は、単に伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータが一体不可分な状態で記録されているわけではないということをいうにすぎず、被告製品が本件考案と同様、両データを関連づけた状態で同一の記録媒体に記録している事実を否定するものではない。被告らは、本件考案でいうところの「伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体」という表現を、伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータが「一体不可分な状態で渾然一体となっていること」のみを意味しているかのように故意に狭く理解した上、これとの差異を主張しているにすぎない。

しかしながら、本件考案において、「伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体」における「一体的」なる表現は、例えば伴奏音楽のデータの中に歌詞映像のデータを埋め込む場合のように伴奏音楽と歌詞映像を文字通り「一体」に記録することを含むと同時に、伴奏音楽と歌詞映像の再生タイミングを関連づける等して両データを「一体的」に取り扱えるようにすることを含むことは当然である。

カラオケ装置では、伴奏音楽の進行に応じて歌詞映像が移り変わっていく必要があることはいうまでもなく、このため伴奏音楽と歌詞映像とは関連づけて記録され、伴奏音楽と歌詞映像とは「一体的」に記録される。仮に同一の記録媒体上に記録されるものであっても、伴奏音楽と歌詞映像が全く無関係にばらばらに記録されるのであれば、このようなものは「一体的」とはいえないかもしれないが、カラオケ装置としては通用しない。被告製品においても、伴奏音楽が始まって歌唱開始箇所になると歌詞映像が映し出され、その後、伴奏音楽の進行に伴って該当個所が色変わりしながら歌詞映像が移り変わっている(検甲一)。これは、伴奏音楽のデータであるMIDIコードデータと歌詞映像のデータであるキャラクタコードデータとが関連づけられているためであり、両データが「一体的」に取り扱われているためと理解される。

被告製品が、伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータを関連づけて同一の記録媒体に記録する以上、本件考案の構成要件Aの「伴奏音楽と歌詞映像を一体的に記録」するとの構成を具備することは明らかである。

2  被告製品は、本件考案の構成要件A、Cの「伴奏・歌詞再生装置」を具備するか。

【被告らの主張】

(一) 後記三(争点3)2の【被告らの主張】において主張するとおり、平成元年補正は無効であるから、本件実用新案登録出願は公告時明細書につき登録がされたものとみなされる。公告時明細書によると、本件考案における伴奏・歌詞再生装置のうち歌詞を再生する部分(以下「歌詞再生装置」といい、伴奏音楽を再生する部分を「伴奏再生装置」という。)及び背景映像再生装置は、次のとおりのものとなる。

<1> 歌詞再生装置は、「歌詞映像」を記録した記録媒体から「映像信号」を読み取って、「歌詞映像」を「再生」する装置

<2> 背景映像再生装置は、「背景映像」を予め格納した記録媒体から「映像信号」を読み取って「背景映像」を再生する装置

右のとおり、公告時明細書による本件考案は、「記録」ないし「格納」の対象となるものと「再生」されるものとは、いずれも「歌詞映像」及び「背景映像」であり、「記録」ないし「格納」の対象となるものと「再生」される対象とは同一のものである。

(二) 仮に平成元年補正が有効であるとすると、本件考案の「映像」の文言はすべて「動画像」であると解釈すべきことになり、そうすると、本件考案の「歌詞再生装置」及び「背景映像再生装置」は、次のとおり解釈されるべきものとなる。

<1> 歌詞再生装置は、「動画像である歌詞映像」を記録した記録媒体から「動画像の映像信号」を読み取って、「動画像である歌詞映像」を「再生」する装置

<2> 背景映像再生装置は、「動画像である背景映像」を予め格納した記録媒体から「動画像の映像信号」を読み取って「動画像である背景映像」を再生する装置

右のとおり、平成元年補正が有効とした場合は、本件考案は、「記録」ないし「格納」の対象となるものと「再生」されるものとは、いずれも「動画像である歌詞映像」及び「動画像である背景映像」であり、「記録」ないし「格納」の対象となるものと「再生」される対象とは、やはり全く同一のものである。

(三) 以上のとおり、本件考案における「歌詞再生装置」及び「背景映像再生装置」のいずれについても、「記録」ないし「格納」されるものと「再生」されるものとは、それぞれについて全く同一のものとなる。このことは「伴奏音楽」を記録した記録媒体から「音楽信号」を読み取って「伴奏音楽」を再生する「伴奏再生装置」についても同様である。

(四) 「再生」される「伴奏音楽」、「動画像である歌詞映像」又は「歌詞映像」、「動画像である背景映像」又は「背景映像」は、当然、いずれも人間が音楽・映像として認識し得たものであり、かつ、前記のとおり、「記録」ないし「格納」されるものと「再生」されるものは同一のものである。したがって、本件考案における「伴奏・歌詞再生装置」及び「背景映像再生装置」は、人間が音楽・映像として認識し得た「伴奏音楽」、「(動画像である)歌詞映像」及び「(動画像である)背景映像」をいったん「記録」ないし「格納」した「記録媒体」から、これを元のとおり人間が音楽・映像として認識し得た「伴奏音楽」、「(動画像である)歌詞映像」及び「(動画像である)背景映像」に復元する装置ということになる。

音楽・映像に関する「再生」の一般的定義は「音声・映像を録音・録画しておいて再びもとのまま出すこと」(広辞苑第三版)であり、このような一般的定義も本件考案の「再生装置」の右定義と合致する。このことは、本件明細書の実施例における「再生装置」である「磁気テープやビデオテープ、ビデオディスク、コンパクトディスクなどの記録媒体」から「信号を読み取って再生する装置」は通常右のような「再生」装置であることからも、理解できる。

(五) 被告製品には、背景映像信号「再生装置」は存在するが、伴奏音楽及び歌詞映像については、「再生装置」は存在しない。

被告製品のうち、背景映像信号再生装置にかかわる動画CDプレーヤは、カメラで撮影され人間が映像として認識し得た「背景映像」の信号を記録した「動画用CD」からこれを元のまま復元して人間が映像として認識し得た「背景映像」の信号を再生する装置であって、まさに本件考案にいう「再生」を行う装置に該当する。しかし、伴奏音楽及び歌詞については、「再生」の過程は存在せず、被告製品には「伴奏音楽」及び「歌詞映像」を再生する「伴奏再生装置」も「歌詞再生装置」も存在しない。

すなわち、

(1) 被告製品における伴奏のデータとしてのMIDIコードデータは、音の強弱・音階等の情報に対応する符合の集合であって、これは音声として人間が認識し得た音楽をそのまま記録するためのものではない。したがって、被告製品は、人間が音声として認識し得た「伴奏音楽」をそのまま記録しておらず、元のまま再び取り出されるべき「伴奏音楽」を記録している媒体も装置もない。

(2) 歌詞についてのデータであるキャラクタコードデータも同様であり、これは、日本語等の文字に対応した単なる符合であって、人間が映像として認識し得たものをそのまま記録するためのものではない。したがって、被告製品は、人間が映像として認識し得た「歌詞映像」をそのまま記録しておらず、歌詞についても同様に、元のまま取り出されるべき「歌詞映像」を記録している媒体も装置もない。

(3) このように、被告製品においては、伴奏音楽及び歌詞映像については、いったん記録したものを復元するという本件考案の「再生」は行われていない。したがって、被告製品には、「伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータを読み取って…再生する」「伴奏・歌詞『再生』装置」は存在しない。被告製品では、様々な符合等を組み合わせて新たに「伴奏音楽」や「歌詞映像」を「生成ないし合成」するのであり、「伴奏音楽を創出する装置」及び「歌詞映像を創出する装置」があるのみである。

【原告の主張】

被告ら主張の「再生」に関する議論は、世間一般の常識はもとより当業者の常識からも著しくかけ離れている。

MIDI音源に基づく伴奏装置であっても、カラオケを楽しむユーザーはもちろんのこと、当業者であっても、その演奏動作を「生成」と呼んだり、「合成」と呼んだりせずに、やはり「再生」という言葉を一般的に使っている。被告大阪有線が出願人である特開平八-六五七九号公開特許公報(乙一一)では、同出願人自身が、MIDIコードデータに基づいて演奏する装置を「楽曲再生手段」という「再生」の語を含んだ用語で定義しているのである。

被告らは、「再生」について複雑な議論をしているが、例えば音楽を対象とした場合、「再生」とは、単純に「元の音楽を再現する」ことと理解するのが世間一般はもとより当業者の常識である。また、「元の音楽を再現する」といっても、例えば生演奏された音楽を完壁に再現することが不可能なことはいうまでもない。このことは音楽に限らない。被告らは、ビデオテープを使用した動画像再生の場合を例として挙げ、ここでは「記録」されるものと「再生」されるものが「全く同一」であると述べているが、三次元の現実の映像とモニタ画面上に二次元的に再生されるものとがどうして「全く同一」であるといえるのか理解に苦しむ。映像にしても音楽にしても、いずれも電気信号にいったん変換して記録されるのであり、また、媒体(例えばモニタ画面やアンプ、スピーカ)を通じて再現されるのであるから、「生」のもの、例えば、現実映像や生演奏の音楽をそのまま再現することなどできないのは当然であり、再現されるべきものとして想定したものを再現することを「再生」の意味ととらえるのが普通である。MIDIの場合であれば、MIDIコードデータの符合列の再現ではなく、これによって奏でられる音楽を想定することになろう。

元のものが生演奏であるか、あるいはMIDIコードデータであるかにかかわらず、これらに基づいて音楽を演奏することが「再生」の範ちゅうに入ることはいうまでもない。

3  被告製品は、本件考案の構成要件Eにいう「好みの背景映像を選択する」との構成を有するか。

【被告らの主張】

(一) 本件考案の構成要件Eの「背景映像を選択する」構成としては、本件明細書の記載等を考慮しても、「歌詞映像(文字)と背景映像とを分離した状態で記録媒体に記憶する」構成と「取り出した背景映像と歌詞映像とを歌う時に合成する」構成、すなわちA~Dの構成を備えていれば当然に実現し得る「歌詞映像と背景映像を分離して記憶媒体に記録して、取出し、すなわち再生した背景映像と歌詞映像とを歌う時に重畳する」構成があるのみである。構成要件Eは、せいぜい構成要件A~D項から当然生じる作用効果を表現したものにすぎない。

本件考案の構成要件Eは、「適宜、好みの背景映像を選択して…入れ替える」とあるが、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、そのような機能ないし使用方法を実現するための具体的な構成の記載はなく、考案の詳細な説明及び図面のいずれにも、そのような具体的構成は示されていない。したがって、構成要件Eは、せいぜい構成要件AないしDから当然に生じる作用効果を表現する意味しかない。

原告は、本件考案が「好みの背景映像を選択する」ものであることを強調するが、「好みの映像を選択する」ための客観的構成が実用新案登録請求の範囲に記載してあればともかく、「好み」というような装置の使用者の純粋に主観にかかる要素は、客観的構成であるべき考案の独立した構成要件をなすものとは到底いえない。しかも、「好みの」背景映像を選択する具体的客観的構成はなく、本件明細書にもこの点について何ら記載はないのであるから、「好み」というような純主観的要素が本件考案の独立した構成要件をなしているとみることはできない。仮に「好み」及び「選択する」との要素が独立した要素として何らかの意味を有し得るものであるとしても、構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」との要素は、「背景映像を入れ替えることができる」という点が重要であると解さざるを得ない。換言すれば、「背景映像を入れ替えることができる」構成を持てば、通常何らかの形で操作者(歌い手)の「好み」を背景映像に反映させ、背景映像を選択することが当然できるのである。

原告は、本件考案の「好みの背景映像を選択する」との構成は構成要件Bに含まれていると主張するところ、その趣旨は、本件考案は、構成要件Bの背景映像再生装置に存在する慣用手段、すなわち、背景映像再生装置の巻き戻し・早送り機能、再生・停止機能によって背景映像を選択するものであるということができる。

(二) これに対し、被告製品の背景映像選択機能は、このような慣用手段によるものではない。被告製品で背景映像選択機能を果たすのは、被告ら主張の被告製品の構成(え)項である。その構成は、入力された背景映像の番号に該当する背景映像が記録された動画CDがCDチェンジャーの複数のスロットのうちのどのスロットに格納されているかを表すデータ及び時間の単位により表された動画CD中の背景映像の記録位置のデータを内蔵したテーブル並びにこれを制御するコマンダー内部のCPU及び動画CDプレーヤに内蔵された検索回路等からなるものであって、明らかに原告主張のような「慣用手段」ではない。しかも、このうちCPUはコマンダー内にあり、背景映像信号再生装置である動画CDプレーヤには含まれていない。したがって、被告製品における背景映像選択機能は、慣用手段によるものではなく、まして背景映像(信号)再生装置の慣用手段によるものでもない。

(三) 右のとおり、背景映像選択を背景映像再生装置である構成要件Bに存在する慣用手段によって行うとする本件考案と、背景映像選択を原告主張のような慣用手段とはいえないテーブル、CPUや検索回路などによって行い、かつその構成は本件考案の構成要件Bに対応する被告製品の構成(う)項である背景映像(信号)再生装置以外にも存在するものを含む被告製品とは、明らかに異なる。

【原告の主張】

(一) 本件考案は、「好みの背景映像を選択する(できる)」構成を有するが、それを実施する具体的態様については限定していない。本件明細書中に右の具体的手段について明示していないのは、このような手段が慣用手段に属し、当業者であれば無数の具体的手段を容易に思いつくことができるからである。本件考案にとって重要なのは、背景映像を入れ替えることができるという点である。曲を選択するのと同様に映像を選択することは、本件考案の出願時、技術的には実現できる状態であった。例えば、曲を選ぶには、曲の頭出し信号(LDではチャプターナンバー)を入力しておき、これを検出することによって頭出しができるが、映像についてもこれと同様に頭出し信号を入力しておけば、背景映像を選ぶことができる。このような技術は、画像操作における汎用技術として、操作手段としてリモコンを用いることと同様、本件実用新案登録出願時から既に公知であり、慣用手段であった。

本件考案の「好みの背景映像を選択する」構成は、構成要件A~Fに含まれるA~Dによって構成される装置に含まれており、より具体的には構成要件Bである「背景映像再生装置」に含まれている。すなわち、本件考案の構成要件B中の「記録媒体から映像信号を読み取」るという背景映像再生装置の構成表現から、その前提として、「記憶媒体」からある「映像信号」を読み取る前に、好みの「選択」がされることは当然であり、「好みの背景映像を選択する(できる)」構成が本件考案中に存在することは明らかである。

被告らは、「好みの背景映像を選択する」構成と、その実施態様である具体的手段を意図的に混同させている。「好みの背景映像を選択する」構成が本件考案の重要な構成要件の一つであることと、それを実現するための実施態様としての具体的手段、すなわち、「背景映像を選択するための具体的手段」が慣用手段であり、その具体的実施態様を問わないこととは何ら矛盾しない。

本件考案の考案性は、各構成要件それぞれにあるのではなく、これらの組合わせにあるのであり、また、この組合わせをもたらした「好みの背景映像を選択できるカラオケ装置」を提供するという発想が重要なのである。

(二) 被告ら主張の被告製品の「背景映像を選択する」構成はまさに慣用手段であり、被告製品が本件考案の構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」構成を有していることは明らかである。

4  フレームメモリについて

【被告らの主張】

本件考案の出願過程(平成四年六月二六日付審判請求理由補充書・乙九)における出願人の主張によれば、本件考案は、「安価な民生機器であるカラオケ装置において」「フレームメモリなし」に「同期問題を解決」して歌詞映像と動画像である背景映像をスーパーインポーズするものと解されるから、本件考案は、フレームメモリを使用しないものに限定されると解すべきである。しかるところ、被告製品は映像を重ねるためにフレームメモリを使用しているから、この点でも本件考案と相違する。

【原告の主張】

本件明細書の実用新案登録請求の範囲にはフレームメモリについての記載はなく、考案の詳細な説明の欄にもフレームメモリについて言及した箇所はなく、本件考案はフレームメモリの使用の有無について何ら規定していない。本件考案がスーパーインポーズに関連してプレームメモリを使用しないものに限定されるとする被告らの理解は、正しくない。本件考案が、動画像である背景映像と、動画像又は静止画像である歌詞映像とを合成する目的でフレームメモリを用いることを排除していないことは明らかであり、被告製品がフレームメモリを用いていることを理由に本件考案の技術的範囲外であるということはできない。

三  争点3(本件実用新案権には無効事由があるか)

1  本件考案は乙第一号証記載の発明と同一か。

【被告らの主張】

(一) 本件考案は、本件実用新案登録出願前である昭和五九年五月一八日に出願され、本件実用新案登録出願後の昭和六〇年一二月四日出願公開された発明の名称「ビデオ再生装置」の特許出願(特願昭五九-一〇〇一四九号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(乙一)記載の発明(以下「乙一発明」という。)と同一である。

(1) 乙第一号証には、本件考案の構成要件A、B、C、D、Fに対応した構成を具備するカラオケ装置が記載されている。

(2) 本件考案の構成要件Eは、「適宜、好みの背景映像を選択して…入れ替える」とあるが、前記のとおり、構成要件Eは、せいぜい構成要件AないしDから当然に生じる作用効果を表現する意味しかない。

一方、乙第一号証には、本件考案の構成要件AないしDに対応する構成が記載されていることは前記のとおりであり、構成要件Eの機能ないし使用方法と同じものが開示されている。

すなわち、乙第一号証の「発明の効果」には、「本発明は同一曲をリクエストするたびに映像の種類をかえて再生することができるので、単調さが解消され、従来のビデオカラオケでは得られない特長を有するビデオ再生装置を提供することができる。」(四頁左下段一〇行目以下)との、背景映像を変更して変化を与えるという機能を開示した記載があり、実施例には、背景映像の選択に関し、「すなわち、同一曲を繰り返しリクエストしても、再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させたり、あるいは、ビデオディスクを交換して、新しい内容のビデオディスクを再生することによって、リクエストするたびに、同じ内容のテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。」(三頁右下段九行目以下)という手段も記載されている。その他、乙第一号証の発明の詳細な説明の記載や図面から、乙一発明の構成が、一つの曲に対して常に同じ背景映像の使用を強いられることを避けて、別の背景映像を選択して、背景映像を適宜変える構成が明確に示されている。

(二) 以上のとおり、本件考案は乙一発明と同一であるから、本件実用新案登録は実用新案法(平成五年法律第二六号による改正前のもの。以下、特許法及び実用新案法につき同じ。)三条の二に違反するので、本件実用新案登録は明らかに無効事由を有する。したがって、本件考案の技術的範囲は、明細書記載の実施例に限定される。具体的には、「伴奏・歌詞再生装置」として「伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号として記憶させた磁気テープやビデオテープ、ビデオディスク、コンパクトディスク」(甲一の三欄一九行目以下)を記憶媒体とし、右媒体から伴奏音楽・歌詞映像を再生する装置を採用したものに限られる。一方、被告製品の伴奏音楽信号生成ないし合成装置及び歌詞映像信号生成ないし合成装置は、いずれもこのようなものではない。したがって、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さない。

さらに、右のように明らかに無効原因を有する本件実用新案権に基づく侵害差止請求を行うことは、権利の濫用であって許されない。

【原告の主張】

(一) 乙一発明には、本件考案の構成要件Eの「適宜、好みの背景映像を選択する」との構成が示されていないから、乙一発明と本件考案とは同一ではない。

(1) 本件考案の「好みの背景映像を選択する」構成は、構成要件AないしFに含まれるAないしDによって構成される装置に含まれており、より具体的には構成要件Bである「背景映像再生装置」に含まれていることは、前記のとおりである。「好みの背景映像を選択する」ことは、本件考案を特徴づける構成の重要な要素である。

(2) 本件考案と乙一発明との構成上の最も重要な差異は、本件考案には背景映像が予め格納された記録媒体から「好みの背景映像を選択する」という構成があるのに対して、乙一発明にはこの構成がないことである。乙一発明は、「再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させる」ことがその考え方の基本となっており、ここでは本件考案の構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」という構成要素については記載も示唆もされていない。乙一発明は、本件考案の構成要件Eを欠く上に、その技術的思想も異なるから、本件考案と同一ではない。乙一発明は、歌詞映像とは別の記録媒体に格納されている一連の背景映像を第2のビデオ再生装置のスタート、スタンバイ操作を行うことによって、同じ曲目に対しても記録媒体の異なる格納位置から背景映像を再生し、これにより同じ曲目に対しても再生するたびに異なった背景映像を映し出すようにした装置にすぎず、ここには「好みの背景映像を選択する」という発想は全く存在しない。

(3) 本件考案は、乙一発明と同様、背景映像が単調であるという問題点の認識を出発点としつつ、さらに、歌い手に背景映像についての選択権がないことも問題点として認識している点において乙一発明と相違する。この「選択権」の有無、さらにはこの選択に歌い手の好みを反映させる着想があるか否かが、本件考案と乙一発明との根本的相違である。

(二) したがって、乙一発明と本件考案が同一であることを理由として、本件実用新案登録に無効事由があるとする被告らの主張は理由がない。

2  本件考案は、出願公告後にされた補正が違法であるため、補正がされなかった出願すなわち公告時明細書の記載による出願につき登録されたものとみなされる結果、乙第二号証記載の発明と同一であるといえるか。本件考案は、乙第一、二号証記載の発明に対し進歩性を有しないか。

【被告らの主張】

(一) 本件実用新案登録出願の出願人が出願公告決定謄本の送達後である平成元年一〇月三一日に本件明細書についてした補正(平成元年補正)は、実用新案法一三条が準用する特許法六四条に違反する補正であるから、補正がされなかった出願すなわち補正前の明細書(公告時明細書)の記載による出願につき登録されたものとみなされる(特許法四二条)。そして、公告時明細書に記載された考案は、乙一発明のみならず、本件実用新案登録出願前に出願がされその後出願公開された特許出願(特願昭五九-七〇五七七号)の当初明細書又は図面(乙二)記載の発明(以下「乙二発明」という。)とも同一であり、本件実用新案登録は、1と同じく無効事由を有する。

(1) 本件考案の公告時明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりであった(ただし、構成要件に分説)。

A 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、

B 背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って背景映像を再生する背景映像再生装置と、

C 前記伴奏・歌詞再生装量から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された背景映像に重ねる為のミクサーと、

D 該ミクサーから出力された映像信号を受けて背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、

E 伴奏音楽を演奏すると同時に該映像に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

F カラオケ装置

(2) 平成元年補正後の明細書には実用新案登録請求の範囲として次の記載がある(ただし、構成要件に分説。補正箇所に傍線を付した。)。

A 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、

B 背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、

C 前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、

D 該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、

E 伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

F カラオケ装置

(3) 本件実用新案登録出願の出願人は、平成元年補正により明細書の実用新案登録請求の範囲を補正したのみならず、考案の詳細な説明についても「背景映像」とあるのを「動画像である背景映像」あるいは「背景映像となる動画像」とする補正を行った。

(4) 平成元年補正により、本件考案は、出願公告時の考案から、全く異なる技術思想を内容とする考案に変更された。すなわち、公告時明細書では、全体にわたって、「背景映像」はそれが「動画像」か否かは問題にならない概念として記載されており、その訴求効果も問題になっていなかった。つまり、公告時考案は、歌詞映像と背景映像を別の媒体から再生し重畳することで(手段)、歌詞映像と背景映像の組合わせの変更を可能にして(作用)、背景映像を選択する(課題の解決)考案であり、かかる手段、作用及び課題の解決にとって、背景映像が動画像であるか否かとの点やその訴求効果は何ら意味のないものであった。したがって、背景映像が動画像であるか否かは、本件公告時考案の作用及び課題を解決するための手段に関わる必要不可欠な事項、すなわち考案の構成要件になっていなかった。このことは、公告時明細書に「動画像である背景映像」を構成とする実施例が開示されていなかったことからも明らかである。

ところが、補正後明細書では、構成中の「背景映像」が「動画像である背景映像」との記載に変更され、背景映像が動画像であるか否かという点とその訴求効果が重要な問題となった。つまり、補正後考案の「動画像である背景映像」という要素は、その訴求効果が重要な効果を有するため、臨場感のある訴求効果を得るという、補正後考案の作用や課題を解決するための手段に関わる不可欠かつ中心的な構成要件となった。

以上のとおり、背景映像が動画像であるか否かという点についての技術的事項は出願公告時の考案にはなかったのであるから、「動画像」という要素が加えられたことにより、考案の本質に関わる構成要件が変更されたものである。また、右のような構成の変更に伴い、平成元年補正により、考案の効果、目的も変更された。

(二) 特許法六四条は、出願公告決定後の補正は特に第三者を害するおそれが大きいことから、補正の許される範囲を厳格に限定している。同条により補正が許されるのは、出願公告時の明細書又は図面に記載された技術事項の範囲内に限られる。すなわち、同条一項各号の定める「特許請求の範囲の限縮」「誤記の訂正」「明瞭でない記載の釈明」は、いずれも出願公告時の明細書の記載を前提として、右明細書に記載された事項の範囲内でなされるべきものである。前記(一)で述べたとおり、平成元年補正は、公告時明細書になかった、背景映像が動画像であるか否かという本質的技術事項を付加したものであるから、公告時明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱して、技術的事項を変更するものである。したがって、右補正は、同条一項各号に該当せず、同条同項に違反する補正であるから、同法四二条により、本件実用新案登録は、補正がされなかった出願すなわち公告時明細書の記載による出願につき登録されたものとみなされる。

原告は、平成元年補正は同法六四条一項三号の「明瞭でない記載の釈明」に該当するとも主張するが、「映像」、「動画像」及び「静止画像」の関係は一義的に明確であり、公告時明細書の「映像」の記載には何ら「明瞭でない」点は存しないから、「映像」の語を「動画像である映像」とする補正は、「明瞭でない記載の釈明」ということはできない。

(三) さらに、平成元年補正は、前記のとおり、考案の構成要件を公告時明細書に開示されていなかった新たな目的を達成する構成に変更するものであり、公告時明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された事項によって構成される「考案の具体的な目的」を逸脱してその技術的事項の変更をもたらし、特許法六四条二項が準用する同法一二六条二項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当するから、無効である。したがって、同法四二条により、本件実用新案登録は、補正がされなかった出願すなわち公告時明細書の記載による出願につき登録されたものとみなされる。

(四) 乙二発明は、発明の名称「映像つき音響再生装置」で、昭和五九年四月九日特許出願され、昭和六〇年一〇月二六日公開された発明である。乙二発明の構成を公告時明細書による本件考案の構成と対比すると、次のとおりである。

(1) 乙二発明は、本件考案の構成要件Aに対応する「伴奏・歌詞再生装置」、同Bに対応する「背景映像再生装置」、同Cに対応する「ミクサー」、同Dに対応する「受像機」の各構成、用途の一つとして同Fに対応する「カラオケ装置」が、乙第二号証の特許請求の範囲や発明の詳細な説明の欄に記載されている。

(2) 乙第二号証の発明の詳細な説明では、従来の技術上の問題点として、歌詞と背景が一体となったビデオディスクを作成することは、各曲に対応して大量のディスクを作成しなければならず、コストがかかることを指摘し(一頁右下段七行目以下)、伴奏音楽及び歌詞の映像を記録する媒体と背景映像を記録する媒体を分け、再生された映像信号を合成し重畳して表示することで、歌詞映像と背景映像の組合わせを変更し、背景映像を入れ替えるという機能が開示されている(二頁左上段ないし左下段)。また、実施例には、「また、CD上には静止画アクセスのためのデータは記録しないで、それを外部のROMなどに記録しておき、CD上の曲名データからROM内の対応するデータを読み出してビデオディスクプレーヤを制御することもできる。この場合、例えば、1MビットのマスクROMを用いると、一二五〇曲以上の背景映像を制御することができる。そして、この方式では、静止画用ビデオディスクのバージョンが変更されても、ROMをかえれば、容易に対応できるという特長がある。」(三頁左下段一六行目以下)との記載がある。これは、ある曲に対し、背景とすべき様々な映像を背景映像の入ったビデオディスクを変えること等によって、背景映像が選択可能であるという機能ないし使用方法を開示している。乙二発明に開示された右構成は、本件考案の構成要件Eと同一である。

以上のとおり、本件考案は、先願である乙二発明と同一であるから、実用新案法三条の二に違反し、無効事由を有する。

(五) 仮に平成元年補正が有効であったとしても、乙第二号証記載の実施例は、背景映像として、静止画像ばかりでなく、当然動画像も再生できるものである。すなわち、乙二発明に係る装置に、動画像の収録されたディスクをセットすれば、背景映像が動画像のカラオケ装置を実現できるのである。したがって、乙二発明は本件考案と相違しない。

(六) 昭和六三年補正は、出願当初の明細書になかった「背景画像を全面的に入れ替えてなる」との要素を付加したもので、特許法四一条の要旨変更に該当し、無効である。その結果、本件実用新案登録出願日は右補正時(昭和六三年七月二〇日)に繰り下がることになる。それに伴い、乙一・乙二発明はいずれも右出願日前に公開されていたから公知技術となり、本件考案がこれらの発明から進歩性を有しないことは明らかである。したがって、本件実用新案登録は無効事由を有する。

【原告の主張】

(一) 平成元年補正は、「背景映像」を「動画像である背景映像」に変更したものであるが、この補正は、出願当初の明細書の記載である「映像」という語が包含していた「静止画像」と「動画像」のうち、当時主流となりつつあった「動画像」を選択したものであり、実用新案法一三条において準用する特許法六四条一項一号の「実用新案登録請求の範囲の限縮」であると同時に、同項三号の「明瞭でない記載の釈明」に該当し、適法である。本件考案は、動画像のみを対象とし、静止画像を対象としていないことは、出願当初から一貫している。その背景として、本件実用新案登録出願時には、カラオケ装置は映像カラオケ、それも動画像を用いた映像カラオケの全盛時代であったという事実がある。

(二) 乙二発明の背景画像は、静止画像であって動画像ではない。また、乙二発明では利用者が「適宜、好みの背景映像を選択」することはできない点で、本件発明と異なる。

(三) 昭和六三年補正の「背景映像を全面的に入れ替えてなる」という補正事項は、出願当初の明細書の要旨を変更するものではない。右補正の適法性は出願審査過程で審査済みである。したがって、被告ら主張のような出願日の繰下がりはなく、乙一・乙二発明に基づいて本件実用新案登録が無効であるとの被告らの主張は理由がない。

3  本件明細書に記載不備があるか。本件考案は未完成か。

【被告らの主張】

(一) 平成元年補正が有効であったとすれば、同補正の結果、本件明細書の実用新案登録請求の範囲は不明瞭なものになり、本件実用新案登録は無効事由を有する。すなわち、原告が主張するように、「映像」が自動的に「動画像」を意味するのであれば、平成元年補正において実用新案登録請求の範囲の「映像」の文言のすべてに「動画像である」の文言を付加すべきである。しかるに、平成元年補正においては、公告時明細書の実用新案登録請求の範囲中に点在する「映像」の文言の一部にのみ「動画像である」との文言を付加したことにより、右補正後の実用新案登録請求の範囲中にいくつかある「映像」の文言が同じかどうか著しく不明瞭になった。このように、本件明細書の実用新案登録請求の範囲は、その内容が不明瞭であり、実用新案法五条五項の「考案の構成に欠くことができない事項」を記載したものとはいえないから、本件実用新案登録は同法三七条一項三号に定める無効事由がある。

(二) 本件考案は、歌詞再生装置から出力された歌詞映像と背景映像再生装置から出力された背景映像を重畳(スーパーインポーズ)させるとの構成が中心的構成の一つとなっているが、そのための具体的構成が欠如しており、又は本件明細書には当業者が容易に実施できる程度にまで具体的客観的に記載されていない。すなわち、二つの独立した映像再生装置から再生される映像信号を重畳するには、少なくとも両映像信号の映像同期信号を時間的に常時高速かつ正確に一致させるような同期信号の信号処理ないし再生制御の技術が決定的に重要である。しかるに、本件明細書には、二つの映像を重畳させるための構成が、当業者が容易に実施できる程度まで具体的客観的に記載されていない。本件明細書には、二つの再生装置1、2にミクサー3から同期信号7を入力すること、又は再生装置の一方から他方に同期信号を入力することが記載されているだけであり、このように同期信号なるものを入力することによって、何故二つの再生装置から再生される映像信号の映像同期信号が時間的に常時正確に一致するような信号処理ないし再生制御を行うことができるのか不明である。映像信号を重畳するために決定的に重要である同期信号の処理手段を欠くような考案は、出願当時も現在も実現不可能である。したがって、本件考案は、二つの映像の重畳につき具体的手段を欠き、完成された考案であるとはいえず、また、本件明細書は当業者が容易に実施可能な程度に明確かつ十分な記載がない。

よって、本件考案は未完成であり、あるいは明細書に記載不備があるものとして、本件実用新案登録は、実用新案法三条一項柱書き、五条四項、三七条一項一号、三号により無効事由がある。

(三) さらに、前記二(争点2)4の【被告らの主張】で述べたとおり、本件実用新案登録出願の過程における出願人の主張(平成四年六月二六日付審判請求理由補充書)によれば、本件考案は、「安価な民生機器であるカラオケ装置において」「フレームメモリなし」に「同期問題を解決」して歌詞映像と動画像である背景映像をスーパーインポーズするものと解されるが、そのような装置は現在でも未だ実現していない。同期問題を処理して「安価な民生機器」において映像を重畳させる方法はフレームメモリを利用する方法しかなく、フレームメモリを使用しない装置は、現在も発明されていない。したがって、出願経過からみても、本件考案は未完成である。

【原告の主張】

(一) 被告らの主張(一)は争う。本件考案の実用新案登録請求の範囲は十分明確である。

(二) 同(二)は争う。実用新案法五条四項が、本件明細書に、二つの映像を重畳させるためのスーパーインポーズの具体的方法の記載を要求するものとは解し得ない。また、右具体的方法について、本件実用新案登録出願時、既にフレームメモリを用いて行う方法や、放送局においてフレームメモリを使用せずに同期を合わせる機構があり、そのことは、映像にかかわる技術者や、技術者でなくとも映像に関わった人や、映像に興味のある人にとっては常識であった。したがって、右の具体的方法についての記載がなければ、当該業界の通常の知識を有する者が本件考案の実施ができないということはない。

(三) 同(三)は争う。被告らが指摘する審判請求理由補充書の記載は、乙二発明の静止画仕様のビデオディスクで動画を再生しようとした場合に静止画像間の空白を埋めるために必要となるフレームメモリの問題について述べたものであって、被告らが主張するような、スーパーインポーズの際のフレームメモリの使用の有無について言及したものではない。右記載は、本件考案の出願当時の技術水準や経済性を考えれば、乙二発明の装置にフレームメモリを付加して動画を再生することは非現実的であると述べたにすぎないものである。

第四  争点に対する判断

一  争点1(被告製品の構成)について

証拠(甲六、七、二二、検甲一、弁論の全趣旨)によれば、被告製品であるカラオケ装置「ユーカラⅡ」の構成は、原告主張の別紙別件目録(一)記載のとおりであると認められる(被告ら主張の構成の記述を採用しなかった理由は、後記の他の争点に対する判断として述べるところも参照)。右構成を、本件考案の構成要件と対比するために分説すると、次のとおりである。

a  伴奏音楽のデータであるMIDIコードデータと、該伴奏音楽のデータに対応する歌詞映像のデータである歌詞のキャラクタコードデータを、記憶媒体であるハードディスクに予め一体的に記録するか又は通信回線を経由して送られてきた前記両データを一体的に記録するとともに、前記ハードディスクから伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータを読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する、コマンダーに内蔵された伴奏・歌詞再生装置と、

b  映像選択タイトル本を参照して好みの背景映像を特定した後、コマンダーの前面パネルに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作するか又はリモコンに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作して好みの背景映像の選択を行い、予め記録した記録媒体である動画用CDから、背景映像信号を読み取って静止画像又は動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置としての動画CDプレーヤーと、

c  コマンダーに内蔵された前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を、前記背景映像再生装置である動画CDプレーヤーから出力された動画像である背景映像に重ねるためのミクサーとしてのスーパーインポーズ回路と、

d  該ミクサーとしてのスーパーインポーズ回路から出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示するモニタとからなり、

e  伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像をモニタに写し出し、適宜、コマンダーの前面パネルに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作するか又はリモコンに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作して装置の使用者が映像選択タイトル本を参照して特定した好みの背景映像を選択し、動画CDプレーヤが右選択された好みの背景映像を再生することによりモニタの受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

f  (背景映像選択機能を有する)通信カラオケ装置

ところで、被告らは、被告製品の構成の特定について、別紙物件目録(二)の「構造の説明」欄記載のとおり主張するところ、本訴における差止対象の特定としては、前記のとおり原告主張を採用するが、被告製品と本件考案の構成との対比に関する争点について、被告らの主張を検討するに当たっては、被告らの特定についての主張をも参照することとする。

二  争点2(被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか)について

1  被告製品は、本件考案の構成要件Aの「伴奏音楽と歌詞映像を『一体的に』記録」する構成を具備するか。

(一) 本件考案においては、「伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が『一体的に』記録媒体に記録される」との構成になっているところ、本件明細書には右の「一体的に記録する」ことの技術的意味を説明する記載は見当たらない。本件明細書の考案の詳細な説明中には、「伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号としてそれぞれ記憶させた磁気テープやビデオテープ、コンパクトディスクなどの記録媒体」(甲一の三欄二〇~二三行)との記載があるが、右記載は、伴奏音楽と歌詞とを、それぞれの信号データとして適宜の記録媒体に記録しなければならないことを説明するだけであり、伴奏音楽と歌詞映像のデータを「一体不可分な」状態で記録しなければならないことを意味するものではないと考えられる。本件考案は、映像を併用したカラオケ装置に関するものである(甲一の一欄一八、一九行目)から、一般的に、重要なことは、伴奏音楽と歌詞映像の所定の関係を保ちつつ再生できるように、伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータとが一曲分の情報として記録媒体に記録されていることであり、換言すれば、一つの伴奏音楽のデータとそれに対応する一つの歌詞映像のデータとが、一曲の音楽・映像として再生できるように、関連をもった状態で記録されることが重要であることが明らかである。本件考案の構成要件Aにいう「一体的」の語は、そのことを表現したものと理解するのが合理的である。音声信号のデータと画像信号のデータを、物理的にどのような状態で記録媒体に記録するかは、記録方式それ自体を対象とする発明・考案であるならばともかく、通常のカラオケ装置における伴奏音楽と歌詞映像の記録・再生方式と格別異なる必要性が認められない本件考案においては、問題にならないと考えられる。

したがって、本件考案において「伴奏音楽と歌詞映像を一体的に記録する」とは、伴奏音楽のデータの中に歌詞映像のデータを埋め込む場合のように、伴奏音楽と歌詞映像を文字通り「一体」に記録することを含むとともに、伴奏音楽と歌詞映像のデータを「一体的」に取り扱えるようにすることも含むものと解するのが相当である。被告らは、本件考案の「一体的」は、「一体不可分な状態で渾然一体となっていること」あるいは「一つになって分けられない関係にあること」を意味すると解すべきであると主張するが、右に説示したところに照らして採用できない。

(二) そこで、被告製品が本件考案でいう「伴奏音楽と歌詞映像を一体的に記録している」といえるかどうかを検討する。

前示の被告製品の構成によれば、被告製品において、伴奏音楽のデータはMIDIコードであり、歌詞映像のデータはキャラクタコードであり、これらのデータはハードディスクに記録されるものである(この点は争いがない。)。なお、右両データが記録されるハードディスクが同一のハードディスクであるのか別々のハードディスクであるのかは、コンピュータ技術において格別の差異はないと考えられるので、問題にならない。

そして、証拠(検甲一)によれば、被告製品は、曲番号を選択すると伴奏音楽が開始し、伴奏音楽が歌唱部に近づくと歌詞映像が表示されることが認められる。すなわち、被告製品においても、本件考案や従来のカラオケ装置と同様に、歌い手が操作をする必要があるのは歌う曲の選定だけであり、曲の演奏が始まれば、歌詞は所定のタイミングで自動的に再生され、選曲の操作に加えて歌詞映像のデータを選定する作業は行われないのである。

してみれば、被告製品において、伴奏音楽のデータとそれに対応する歌詞映像のデータとは、互いに独立なデータとして記録されているのではなく、伴奏音楽のデータが選定されると、自動的に歌詞映像のデータが決まり、所定の再生タイミングに歌詞データが再生されるように、両データは関連づけられて記録されているものと認められる。

以上によれば、被告製品における伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータを記録媒体に記録する態様は、本件考案にいう「一体的に記録」に含まれるものというべきであり、本件考案の構成要件Aの「伴奏音楽と歌詞映像を一体的に記録」する構成を具備するものと認められる。

2  被告製品は、本件考案の構成要件A、Cの「伴奏・歌詞再生装置」を具備するか。

(一) 平成元年補正が被告ら主張のように無効と解すべきではないことは、後記三の争点3に対する判断において説示するとおりである。そこで、平成元年補正後の本件明細書の記載に基づいて、本件考案の「伴奏・歌詞再生装置」の技術的意味を検討する。

本件明細書の考案の詳細な説明には、「伴奏・歌詞再生装置」の具体例に関し、「この装置で使用する伴奏・歌詞再生装置1としては、…磁気テープやビデオテープ、ビデオディスク、コンパクトディスクなどの記録媒体からそれぞれの信号を読み取って再生する装置等が採用でき」(甲一の三欄一九~二四行)ることが記載されており、ここに記載された記録媒体から信号を読み取って再生する装置としては、磁気テープ記録再生装置、ビデオデッキ、レーザーディスクプレーヤー、VHDプレーヤー、コンパクトディスクプレーヤー等があることは明らかである。これらの装置において、音声や画像が記録・再生される一連の過程は、人間が認識し得る音や画像を、各記録媒体の記録方式に従ったデータの形式に変換した後、各記録媒体に物理的に記録し、また、記録された物理量を読み取って、人間が認識し得る音や画像の情報に変換して出力するものであり、これらの装置に入・出力される情報(データ)としての物理量は、各装置によって異なるし、必ずしも人間が直接認識し得るものではない。

被告らは、記録されるものと再生されるものとは全く同一のものであるとして、本件考案にいう「再生装置」は、人間が認識し得る音や画像を入力する装置に限られる旨主張する。しかし、テレビ放送を録画するビデオデッキ一つを取り上げてみても、ビデオデッキに入力されるものはテレビ電波であって、これを人間が音や画像として認識できるわけではなく、さらにビデオデッキの再生出力も依然として電気信号であって、人間が直接認識することはないのであって、人間が認識できるような情報に変換するには、テレビジョン装置が必要であることが明らかである。してみると、本件考案の「再生装置」に入力される情報は、再生されるものが人間の認識し得る音や画像となるような情報であることを必須とするものであるけれども、入力される情報自体は、人間が直接五感によって認知できるものに限定される必然性はないと解される。すなわち、「再生装置」は、記録された情報を取り出して処理した結果、人間が認識できる音や画像を出力する装置(実際には、さらに表示装置やスピーカー等が必要である。)を意味するのであり、記録のために入力されるものは、音や画像の情報(データ)であれば十分である。本件考案の「再生装置」は、まさに「再生」の部分に意味があるのであって、「記録」の部分に格別の重要性はないと考えられる。「再生装置」が再生する記録媒体は、何らかの手段により、再生したときに音や画像となる情報(データ)が記録されていれば足りる。

以上によれば、本件考案の「伴奏・歌詞再生装置」は、原告が主張するとおり、再現されるべきものとして想定されたものを再現する装置であると解するのが相当である。

(二) そこで、被告製品が本件考案の「伴奏・歌詞再生装置」を具備しているかどうかを検討する。

(1) 被告製品においては、被告らの主張によれば、伴奏音楽については、「予め入力され、又は通信回路を経由して送られてくるMIDIコードデータをハードディスクに記録し、ハードディスクから右MIDIコードデータを読み取って、シンセサイザ回路制御信号変換・供給回路及びシンセサイザ回路によって、伴奏音楽信号を生成ないし合成する」(被告ら主張の被告製品の構成(あ)項)ものであり、歌詞映像については、「予め入力され、又は通信回路を経由して送られてくる歌詞のキャラクタコードをハードディスクに記録し、ハードディスクから右キャラクタコードデータを読み取って、フォントデータ記憶回路その他の回路によって、歌詞映像信号を生成ないし合成する」(同(い)項)ものというのである。

(2) MIDIは、Musical Instruciton Digital Interfaceの略語であることからも明らかなように、もともとは電子楽器やシンセサイザー等を外部から制御するための規格であるが、現在は、電子楽器に限らず、コンピュータとも相互に演奏データをやり取りするために用いられているものである。

被告らは、被告製品において記録されるMIDIコードデータは、人間が音声として認識できないものであり、被告製品は、人間が音声として認識できないものを記録し、それを読み取って人間が音声として認識し得るものにするのであるから、MIDIコードデータを伴奏音楽に変換する作用は、本件考案の「再生」ではなく、「生成ないし合成」である旨主張する。しかし、右主張は、記録される情報(データ)の具体的内容(人間にとって意味のある情報)と、情報(データ)を記録する際のデータの形式とを混同した議論であるといわざるを得ない。MIDIコードデータであっても、もともとは、人間が認識し得る音楽から作成されるものである。電子楽器を演奏してMIDIコードデータに変換する場合はもちろん、MIDIコードデータを数値として直接入力する場合でも、数値を入力する人は、その数値によって生成される音楽を認識して入力しているものと考えられる。MIDIコードは、いわば楽譜を書くときの規則のようなものであって、MIDIコードで記録しようと、音符で記録しようと、人間が認識し得る曲が記録されることに変わりはない。MIDIコードデータとは、人間が認識し得る音楽を記録する際のデータの形式であって、MIDIコードデータを用いて記録された情報は、人間が認識し得る音楽にほかならない。

してみると、被告製品は、MIDIコードデ1タというデータ形式で音楽を記録し、そのデータを読み出して、人間が認識し得る音楽に変換するものであり、この作用は、本件考案の「再生」と同じであるというべきである。

(3) 次にキャラクタコードデータについてみると、キャラクタコード(文字コード)とは、コンピュータ上で文字や記号を扱うために、それぞれの文字や記号に割り振った符合のことであり、キーボード等から入力された文字は、文字コードに置き換えられた上で処理されるものであるから、キャラクタコードデータそれ自体は、人間が直接文字として認識するものでないとしても、人間が直接認識し得る文字から作成されるものである。

被告製品において、キャラクタコードデータが記録されるのは、キャラクタコードデータというデータ形式で、歌詞映像として生成されるべき文字情報が記録されているのであり、人間が理解できない情報が記録されているのではない。被告らの前記主張は、キャラクタコードデータについても、記録する情報と記録する際のデータ形式を区別せずに、本件考案との対比を行うものである。

したがって、被告製品における歌詞映像の生成も、本件考案にいう「再生」に相当するものということができる。

(三) 以上によれば、被告製品において、MIDIコードデータとキャラクタコードデータを記録し、これを読み取って伴奏音楽と歌詞映像を(被告らの表現で)「生成ないし合成する」装置は、本件考案の「伴奏・歌詞再生装置」に当たると認められる。

3  被告製品は、本件考案の構成要件Eにいう「好みの背景映像を選択する」との構成を有するか。

(一) 被告らは、本件考案の構成要件Eは明細書に具体的構成が示されておらず、せいぜい構成要件A~Dから当然に生じる作用効果を表現する意味しかないと主張するので、検討する。

(1) 本件考案の出願・公告の当時、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲には、「実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみ」を記載しなければならないものであった(実用新案法五条五項)ものであるから、明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された事項は、単に作用効果を記載したにすぎないような格別の場合のほかは、考案の構成を記載したものとみるべきである。実用新案登録請求の範囲に記載された事項が抽象的な場合には、まず明細書の考案の詳細な説明を参酌し、それだけで不十分な場合には、技術常識、周知慣用技術等当業者にとって技術的に自明な事項を参酌して、その技術的事項を確定すべきであり、実用新案登録請求の範囲の記載が抽象的であるからといって、ただちに実用新案登録請求の範囲の他の部分の構成から当然に生じる作用効果を記載したものにすぎないと即断すべきではない。

本件考案の公告時明細書の構成要件Eの「適宜、好みの背景映像を選択する」との記載は、それ自体は抽象的ともいえるが、仮にこの記載がないものとして実用新案登録請求の範囲の構成をみると、「同じ伴奏音楽・歌詞映像において、背景映像が入れ替わるカラオケ装置」が観念されることになろうが、そのようなカラオケ装置においては、誰がその背景映像を入れ替えるのか、どのような基準で入れ替えるのか、何ら限定されないものとなる。

これに対し、本件考案にいう「好みの背景映像を選択する」において、「好み」とは歌い手の好みであり、「選択する」のも歌い手であることは、本件明細書の考案の詳細な説明の記載に照らして明らかである。そして、本件考案の作用効果の一つは、同じ伴奏曲でも、歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能になるということであるのに対し、「好みの背景映像を選択する」が構成でないとした場合には、機械が自動的に背景映像を入れ替えるような場合も含むことになるから、必ずしも歌い手の好みに応じた背景映像とするとは限らないことになり、本件考案の作用効果を奏しないことになる。

してみると、「好みの背景映像を選択する」との記載を単なる作用効果であるとして構成要件から除外することは、明細書記載の作用効果を奏し得ないものを包含することになるから、右記載は単なる作用効果の記載ということはできず、むしろ、構成要件A~Dだけでは規定されていない構成を、機能的、作用的表現によって記載したものと解するのが相当である。

(2) 原告は、本件考案の構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」手段は、構成要件A~Dによって構成される装置に含まれ、より具体的には構成要件Bである「背景映像再生装置」に含まれると主張する。しかし、原告の右主張は、構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」が考案の構成でないことを認める趣旨ではなく、本件考案のカラオケ装置を実際に作るときには、「好みの背景映像を選択する」構成がそれ自体単独で存在するのではなく、構成要件Bの「背景映像再生装置」に組み込まれる、あるいは、関連して設置されることをいうものと解される。

構成要件Bの「背景映像再生装置」自体は、背景映像を再生するものであるから、どの記録媒体の映像を再生するかは、何らかの手段により選択されるものである。本件明細書の考案の詳細な説明にも、本件考案のカラオケ装置の使用法、作用に関して、「背景映像再生装置2にテープまたはディスクをセットし、任意に背景となる映像を選定する」(甲一の三欄三二~三四行)と記載されており、「背景映像再生装置」が背景映像選択機能を有することは明らかである。その際、再生すべき映像の選択を行うには、種々の手段が想定されるが、本件考案では、歌い手がその好みに応じて選択できる構成を具備するものであるから、そのような手段は、少なくとも歌い手が操作でき、その操作によって再生すべき記録媒体が選定されるものであると考えられる。

(3) 本件明細書及び図面には、「好みの背景映像を選択する」具体的手段の説明は、被告らも主張するとおり存しない。しかしながら、明細書中に具体的手段の説明がされていなくても、次のとおり、その構成は当業者にとっては自明の事項として、容易に実施できるものと認めるのが相当である。

本件明細書には、背景映像映像選択手段のみならず、伴奏音楽選択手段についても、具体的な説明がない。しかし、カラオケ装置は、従来から、種々の選曲手段を備えており、選曲手段を具備することがカラオケ装置の本質的構成といえるから、カラオケ装置の考案に関して単に選曲手段に関する具体的記載がないからといって、そのカラオケ装置が選曲手段を具備しないと考える当業者はいないであろう。それは、選曲という機能・作用は、種々の慣用手段によって当業者が容易に実現できるからである。

本件考案のカラオケ装置も、明細書には、伴奏音楽については、「伴奏・再生装置1に、それに対応したテープ又はディスクをセットし、歌う曲を選定し」(甲一の三欄三〇~三二行)と記載されているだけであって、伴奏音楽選択手段についての具体的説明はないけれども、伴奏音楽の選択手段を具備することは当然である(被告らもこの点を争っていない。)。伴奏音楽を選択する具体的手段は、従来のカラオケ装置と同様に、種々の慣用手段によって、当業者が容易に実現できるものと考えられる。具体的には、構成要件Aの「伴奏・歌詞再生装置」において、選択すべき伴奏音楽が記録された記録媒体を指定する手段であれば、何でもよいから、例えば、操作スイッチとその操作を解読して、記録媒体中の記録信号と関連づける手段があれば十分である。そして、そのような手段は、CDプレーヤーの選曲手段等に従来より採用されているように、本件考案の出願当時には慣用手段であったと考えられる。

本件考案の背景映像再生手段についても、右と同様に、当業者が種々の慣用手段によって容易に実現できるものというべきであり、選択手段は、伴奏音楽を選択する手段と基本的に同じ構成が適用できると考えられる。本件考案の背景映像は動画像であるが、本件明細書において背景映像再生装置の一実施例として挙げられているビデオディスク(出願当時の技術ではレーザーディスクであったと考えられる。)は、CDと同様の円盤の記録媒体を用い、ランダムアクセス可能な記録方式であって、CDと同様な選択手段を備えていたものであり、映像は、フレームを最小単位として管理され、原告が主張するようにチャプターの単位でも番号の入力等によってランダムに選択できる構成であることは、当裁判所に顕著な事実である。

してみると、本件考案において、背景映像を選択する構成は、当業者には自明の事項というべきであり、明細書の考案の詳細な説明に背景映像を選択する具体的手段の説明がないからといって、当業者が「背景映像を選択する」構成を容易に実施できないとは解されない。そして、「好みの背景映像を選択する」構成は、歌い手が操作スイッチを操作できる状態にあれば十分であることも、当業者には自明の事項であるから、結局、「好みの背景映像を選択する」構成は、その具体的手段の説明が考案の詳細な説明になくとも、当業者が容易に実施できるものであると考えられる。

(二) 被告製品の構成eにおいては、「適宜、コマンダーの前面パネルに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作するか又はリモコンに設けられた映像選択キー及び数字キーを操作して装置の使用者が映像選択タイトル本を参照して特定した好みの背景映像を選択」するものであるから、本件考案の構成要件Eにいう「好みの背景映像映像を選択する」構成を具備していることは明らかである。被告らは、被告装置の背景映像選択装置の構成を別紙物件目録(二)の第四「構造の説明」の(え)項のとおり主張するが、右主張に即してみても、被告製品の背景映像選択装置は、装置の使用者がコマンダーの前面パネル又はリモコンにあるボタンや数字キーを操作することにより、動画CDプレーヤに記録された背景映像を選択する構成になっているものであるから、本件考案の右構成を充足することに変わりはない。

被告らは、被告製品における背景映像選択機能は、慣用手段によるものではないと主張するが、「好みの背景映像を選択する」という技術思想は本件考案において導入されたものであって、「好みの背景映像を選択する」構成自体が慣用手段である必要はないと考えられる。したがって、被告らの右主張は採用できない。

4  フレームメモリについて

被告らは、本件考案の出願過程において出願人のした主張から、本件考案は、フレームメモリを使用しないものに限定されると解すべきである旨主張する。

乙第九号証によれば、本件考案の出願人は、平成四年六月二六日付審判請求理由補充書中で、登録異議の決定において引用された乙二発明との相違点の一つ、すなわち、本件考案の背景映像が動画像であるのに対し、乙二発明では背景映像は静止画像であることを主張する根拠として、「乙二発明は、当時の技術水準を前提にすると、背景映像として静止画像のみを対象とする技術であり、乙二発明が前提にしていると推測されるフレームメモリ機能を動画像に利用することは、当時の技術水準では費用がかかりすぎて、安価なカラオケ装置への適用は事実上不可能であった。プレームメモリなしに動画像を再生しようとすれば、本件考案のように同期問題を解決した上、その再生対象を動画像のみに限定するしかない。」などと述べたことが認められる。しかし、審判請求理由補充書においてされた右主張は、乙二発明が背景映像として静止画像のみを対象とする発明であるとの主張の中でフレームメモリに言及したものであり、右主張の全体の趣旨としては、本件考案において歌詞映像と動画像である背景映像を重畳(スーパーインポーズ)するための構成として、フレームメモリを使用しないものに限定する旨を述べた趣旨とは解されない。本件明細書にも、フレームメモリに言及した箇所はなく、フレームメモリの使用の有無については何ら問題にされていないのである。したがって、前記出願経過における出願人の主張によって本件考案の構成を限定することは相当でないから、被告らの右主張も採用できない。

そうすると、被告製品がフレームメモリを使用している点で本件考案と相違するとの被告らの主張は、前提を欠き、失当である。

5  以上の争点のほかは、被告製品の構成が本件考案の構成要件を充足することは、当事者間に争いがない。

以上によれば、被告製品は本件考案の技術的範囲に属するものということができる。

三  争点3(本件考案に無効事由があるか)について

1  本件考案は乙一発明と同一か。

(一) 乙一発明が、本件考案の「適宜、好みの背景映像を選択する」との構成を備えているか否か争いがある。

被告らは、乙一発明と本件考案の対比の前提として、本件考案の構成要件Eは明細書に具体的構成が示されておらず、せいぜい構成要件A~Dから当然に生じる作用効果を表現する意味しかないと主張するが、右主張が採用できないことは、前示のとおりである。

(二) 乙第一号証によれば、乙一発明の公開特許公報の特許請求の範囲の記載は「リクエスト曲に応じた第1の映像信号およびリクエスト曲に応じた音声信号を再生する第1のビデオ再生装置と、リクエスト曲に無関係な映像である第2の映像信号を再生する第2のビデオ再生装置と、前記第1の映像信号と前記第2の映像信号とを合成し第3の映像信号を形成する映像合成装置と、リクエスト時、前記第1のビデオ再生装置の再生状態に応じて前記第2のビデオ再生装置を再生状態にすると共に、前記第2の映像信号を再生させて前記映像合成装置から前記第3の映像信号を出力させる制御を行なう制御装置とからなるビデオ再生装置。」というものであり、発明の詳細な説明には、「産業上の利用分野」の項に「本発明はビデオ再生装置に係り、同一曲をリクエストするたびに映像の種類をかえて再生することができるビデオ再生装置に関するものである。」(一頁左下段九行~右上段一行)との記載が、「実施例」の項に「本発明になるビデオ再生装置は、同じ曲をリクエストするたびに一連の映像の種類がかわるビデオカラオケ装置である。」(二頁左上段八~一〇行)との記載があることが認められる。しかるところ、乙第一号証の発明の詳細な説明には、「このように、テロップだけの映像とテロップのない映像とを合成してテロップの入った新しい映像をつくるのである。そしてテロップのない映像を適宜かえることにより、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。すなわち、同一曲を繰り返しリクエストしても、再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させたり、あるいは、ビデオディスクを交換して、新しい内容のビデオディスクを再生することによって、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。」(三頁右下段四~一六行)との記載があり、ビデオディスクの再生位置を変えたり、ビデオディスクを交換することによって、背景映像を変えることが開示されている。

しかし、乙第一号証においては、右のビデオディスクの再生位置の変更やビデオディスクの交換を誰が行うのかは、明確に記載されていない。技術的には、ビデオディスクの再生位置の変更やビデオディスクの交換は、人間が行う場合もあれば、装置が自動的に行う場合もあるのであって、乙第一号証において、ビデオディスクの再生位置の変更やビデオディスクの交換は、当然に人間(歌い手)が行うものであるとみることはできない。

そうすると、乙第一号証には、背景映像を変えるという構成は開示されているが、歌い手が好みの背景映像を選択して背景映像を変えるとの構成までは明確に記載されているということはできない。

したがって、乙一発明は、本件考案の構成要件Eの「好みの背景映像を選択する」との構成が開示されていないから、本件考案が乙一発明と同一であるということはできない。

(三) よって、乙一発明が本件考案と同一の発明であることを前提とする被告らの前記主張は採用できない。

2  本件考案は、平成元年補正が違法であるため、公告時明細書の記載による出願につき登録されたものとみなされる結果、乙二発明と同一であるといえるか。本件考案は、乙一・乙二発明に対し進歩性を有しないか。

(一) まず、平成元年補正の適法性について検討する。

証拠(甲一、乙四)によれば、本件考案の公告時明細書の実用新案登録請求の範囲の記載及び平成元年補正後の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、被告ら主張のとおりであると認められる。すなわち、平成元年補正により、実用新案登録請求の範囲中の三箇所の「背景映像」の語が「動画像である背景映像」と補正され(ほかに、構成要件E中の「映像」が「伴奏音楽」に補正されている箇所が一箇所あるが、これは誤記の訂正と認められる。)、そのほか、考案の詳細な説明中の「背景映像」についても数箇所にわたり同様の補正がされている(乙四)。

被告らは、公告時明細書の「背景映像」の記載を「動画像である背景映像」の記載に変更することにより、「動画像」という要素が新たに加えられ、考案の本質に関わる構成要件が変更されたもので、平成元年補正により、出願公告時の本件考案は全く異なる技術思想を内容とする考案に変更された旨主張する。

右主張の当否を検討するに、「映像」の語は、一般的には「映画やテレビジョンなどに映し出された画像」(広辞苑第四版)のことであり、AV機器の技術分野においても、「映像」とは「音声」に対する用語であって、「映像」の用語自体が不明瞭であるとは考えられない。しかし、テレビジョンに映し出された画像は、通常の放送では、実物のように動く動画像が一般的であるが、テストパターンのような静止画像が放送されることもあり、「映像」という用語自体は、動画像と静止画像を区別するものではないと考えられる。すなわち、「映像」とのみ記載された場合には、動画像であれ静止画像であれ、画像であればすべてを含むものと解される。してみると、「背景映像」を「動画像である背景映像」とする補正は、動画像と静止画像の両方を包含していた「映像」のうち、動画像のみに限定するものであり、実用新案法一三条が準用する特許法六四条一項一号にいう「特許請求の範囲の限縮」に該当するものと認あるのが相当である。

本件考案は、歌い手が「好みの背景映像を選択する」点に特徴があるのであって、背景映像が動画像であるか、静止画像であるかによって、「好みの背景映像を選択する」目的、作用効果が異なるものとは解し難い。被告らは、動画像が有する訴求効果による静止画像に対する優位性を主張するが、それは、動画像が本来的に有する特質であって、本件考案の特徴とはいえない。公告時明細書の「映像」の用語を補正によって「動画像」に限定したことによる作用効果は、動画像そのものの作用効果であり、周知の事項というべきであるから、「背景映像」を「動画像である背景映像」と補正したからといって、本件考案の目的、作用効果が実質的に変更されたということはできない。

したがって、平成元年補正は、特許法六四条二項(実用新案法一三条が実用新案登録出願の審査に準用)が準用する同法一二六条二項の定める「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」には当たらない。

以上によれば、平成元年補正が、実用新案法一三条において準用する特許法六四条に違反する補正であるとの被告らの主張は、理由がない。

(二) 被告らは、本件考案と乙二発明とが同一である旨主張するが、前記(一)の認定によれば、本件考案と乙二発明との同一性は、乙二発明と平成元年補正後の本件考案とを対比して判断すべきである。

乙第二号証(公開特許公報)によれば、乙二発明の特許請求の範囲は、「多数の静止画を収納したビデオディスクと、各曲ごとのオーディオ信号及び歌詞や楽譜などの情報を記録したメディアとを組み合わせて使用し、このメディア上に記録された曲に対応してビデオディスク上の静止画を所定の順序で複数枚選択して再生する手段を有し、上記メディアからのオーディオ信号を音響として再生すると共に、上記歌詞や楽譜などの情報を上記静止画に重畳して表示するようにした映像つき音響再生装置。」というものであり、右特許請求の範囲の記載からも明らかなように、静止画像である背景映像のみを用いる構成を開示した「映像つき音響再生装置」(カラオケ装置等)に関する発明であると認められるから、「動画像である背景映像」を用いる本件考案とは構成を異にするものである。また、乙二発明には、本件考案の構成要件Eの「適宜、好みの背景映像を選択する」との構成が開示されているとも認められない。

したがって、乙二発明と本件考案が同一であるとはいえないから、これらが同一であることを前提とする被告らの主張は採用できない。

(三) さらに、被告らは、昭和六三年補正は明細書の要旨を変更するものである旨主張する。

昭和六三年補正で、出願当初の明細書には明示されていなかった「背景映像を全面的に入れ替えてなる」との構成が明記されたことは、当事者間に争いがない。しかし、本件考案の背景映像は、背景映像再生装置によって再生されるものであり、明細書の実施例に記載されたビデオディスクプレーヤーやVTR等によって再生される映像は、特段の説明がない以上、通常のサイズのものすなわち受像機の受像画面全体のサイズのものであると考えられる。そして、本件考案は、背景映像再生装置から再生される背景映像を選択するものであるから、背景映像は、選択操作が行われるつど新しい背景映像となり、それまでの背景映像と入れ替わるものであることは明らかである。してみると、「背景映像を全面的に入れ替えてなる」構成、すなわち公告時明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された「受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる」との構成は、本件実用新案登録出願時に周知のビデオディスクプレーヤーやVTR等を使用すれば当然に具備する事項であり、当初明細書に明示されていないにしても、自明の事項であるというべきであり、明細書に記載されているのに等しいものと考えられる。

そうすると、昭和六三年補正は、当初明細書の記載の範囲内で行われたものというべきであり、明細書の要旨を変更するものとはいえない。

被告らの前記主張も採用の限りではない。

3  本件明細書に記載不備があるか。本件考案は未完成か。

(一) 被告らは、平成元年補正において、実用新案登録請求の範囲中にいくつかある「映像」のうちの一部にのみ「動画像である」の文言を付加したことことにより、実用新案登録請求の範囲に複数ある「映像」の文言が同じかどうか著しく不明瞭になった旨主張する。しかし、平成元年補正は、公告時明細書の実用新案登録請求の範囲中の「映像」のうち「背景映像」のみを「動画像である背景映像」に補正する趣旨であることは、補正の前後の明細書全体をみれば明らかであるから、平成元年補正後の明細書の記載が被告ら主張のように不明瞭になったとはいえない。

(二) 被告らは、本件考案は、歌詞再生装置から出力された歌詞映像と背景映像再生装置から出力された背景映像を重畳(スーパーインポーズ)させるための具体的構成が欠如しており、出願当時も現在も実現不可能であるから、未完成ないし明細書の記載不備がある旨主張する。

しかし、右のように二つの映像を重畳することは、本件考案より先願である乙一・乙二発明の公開特許公報である乙第一、二号証にも記載されているところであって、これらにおいても、二つの映像を重畳する具体的手段について、本件明細書の程度以上に開示されているわけではない。乙一・乙二発明のカラオケ装置も、本件考案が対象とする業務用カラオケ装置と同じく、民生機器レベルを対象とするもので、格別高度の技術レベルを対象とするものではない。このことからみても、映像機器の技術分野において、二つの映像を重畳するための構成に関して、本件明細書の記載が不十分で当業者が理解できないとか、考案として完成していないとはいえない。

(三) また、被告らは、本件考案の出願過程において出願人のした主張から、本件考案はプレームメモリを利用しないで映像を重畳させるというものであるところ、「安価な民生機器」においてフレームメモリを使用しない装置は現在も発明されていない旨主張する。

しかし、被告ら主張の出願過程における出願人の主張によって本件考案の構成をフレームメモリを使用しないものに限定することが相当でないことは、前示のとおりであるから、被告らの右主張も採用できない。

四  結論

以上によれば、原告の被告大阪有線に対する請求は理由がある。被告日本電気に対する請求は、主文第二項掲記の限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(平成一〇年六月一八日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 小出啓子)

物件目録(一)

一、被告製品

コマンダーUK-CM二〇、

アンプUK-AM二〇、

動画CDプレーヤーUK-CH二〇、

よりなるユーカラⅡの基本ユニット及び

コマンダーUK-CM二〇、

アンプUK-AM二〇、

動画CDプレーヤーUK-CH二〇、

スピーカーUK-SP二一

スピーカーハンガーMARANTZ TS-一二

ダイナミックマイクロホンUK-MC〇三

二九型モニター専用 SANYO C-VM二九一U(H)、

システムラック UK-RA一一

よりなるユーカラⅡの標準セット

一、被告製品

別紙図面第一図に記載の通信カラオケ装置

構成の説明

a 伴奏音楽のデータであるMIDIコードデータと、該伴奏音楽のデータに対応する歌詞映像のデータである歌詞のキャラクタコードデータを、記録媒体であるハードディスクに予め一体的に記録するか又は通信回線を経由して送られてきた前記両データを一体的に記録するとともに、前記ハードディスクから伴奏音楽のデータと歌詞映像のデータを読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する、コマンダーに内蔵された伴奏・歌詞再生装置と、

b 映像選択タイトル本を参照して好みの背景映像を特定した後、コマンダーの前面パネルに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作するか又はリモコンに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作して好みの背景映像の選択を行い、予め記録した記録媒体である動画用CDから、背景映像信号を読み取って静止画像又は動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置としての動画CDプレーヤと、

c コマンダーに内蔵された前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を、前記背景映像再生装置である動画CDプレーヤから出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーとしてのスーパーインポーズ回路と、

d 該ミクサーとしてのスーパーインポーズ回路から出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示するモニタと、からなり、

e 伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像をモニタに写し出し、適宜、コマンダーの前面パネルに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作するか又はリモコンに設けられた映像選択キー及び数字キー等を操作して装置の使用者が映像選択タイトル本を参照して特定した好みの背景映像を選択し、動画CDプレーヤが右選択された好みの背景映像を再生することによりモニタの受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

f 背景映像選択機能を有する通信カラオケ装置。

物件目録(二)

第一 名称

コマンダUK-CM二〇

アンプUK-AM二〇

動画CDプレーヤUK-CH二〇

スピーカUK-SP二一

二九型専用モニタSANYO C-VM二九一U

第二 図面の説明

本目録添付の図面は、被告製品のブロック図である。

第三 図面符合の説明

1は動画CDプレーヤ、2はMIDIコードデータ記憶回路、3はシンセサイザ回路制御信号変換・供給回路、4はシンセサイザ回路、5はキャラクタデータ記憶回路、6はフオントデータ記録回路、7は同期信号分離回路、8はキヤラクタデータ及びフオントデータ読出並びにフレームメモリ書込回路、9はフレームメモリ、10は歌詞映像信号変換・出力回路、11はスーパーインポーズ回路、12はモニタ、13はアンプ、14はスピーカ。

第四 構造の説明

被告製品の構成は次のとおりである。

第一図

<省略>

(あ) 予め入力され、又は通信回路を経由して送られてくる、音楽信号を生成ないし合成させるために決められた、音の強弱、音階、生成ないし合成の開始・停止等の情報に対応するMIDIコードによって記述された伴奏のデータであるMIDIコードデータを、ハードディスクに記録し、ハードディスクから右MIDIコードデータを読み取って、シンセサイザ回路制御信号変換・供給回路及びシンセサイザ回路によって、伴奏音楽信号を生成ないし合成する伴奏音楽信号生成ないし合成装置と、

(い) 予め入力され、又は通信回路を経由して送られてくる、歌詞のキャラクタコードデータを、ハードディスクに記録し、ハードデイスクから右キャラクタコードデータを読み取って、フオントデータ記憶回路、キャラクタコードデータ及びフオントデータ読出並びにフレームメモリ書込回路、フレームメモリ及び歌詞映像信号変換・出力回路によって、歌詞映像信号を生成ないし合成する歌詞映像信号生成ないし合成装置と、

(う) 予め静止画像又は動画像である背景映像信号を記録した動画用CDから、背景映像信号を読み取つて、静止画像又は動画像である背景映像信号を再生する背景映像信号再生装置としての動画CDプレーヤと、

(え) 装置の使用者が、コマンダーの前面パネル又はリモコンにある「映像選択」との表示のあるボタンを押した後に、右前面パネル又はリモコンにある数字キーを押して、背景映像の番号を入力し、右前面パネル又はリモコンにある「入力」との表示のあるボタンを押すことにより、該番号が、コマンダー内部のCPUに伝達され、さらにこれが、動画CDプレーヤに伝達され、動画CDプレーヤに内蔵された検索回路により、背景映像の番号に該当する背景映像が記憶された動画CDのデータ及び時間の単位により表された動画CD中の背景映像の記録位置のデータを記憶した動画CDプレーヤに内蔵されたテーブルから、該背景映像の番号のデータが読み取られ、同回路の指示により、該当する動画CDがセットされ、ピックアップが該当位置に移動され、該当位置から再生が開始される背景映像選択装置と、

(お) 前記歌詞映像生成ないし合成装置から出力された歌詞映像信号を、前記背景映像信号再生装置である動画CDプレーヤから出力された静止画像又は動画像である背景映像信号に重ねるためのコマンダーに内蔵された、スーパーインポーズ回路と、

(か) 右スーパーインポーズ回路から出力された映像信号を受けて静止画像又は動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示するモニタからなる

(き) カラオケ装置。

<図面>

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭63-49884

<51>Int.Cl.4G 11 B 20/02 H 04 N 5/91 識別記号 庁内整理番号 M-7736-5D Z-7734-5C <24><44>公告 紹和63年(1988)12月21日

<54>考案の名称 カラオケ装置

<21>実願 昭59-158557 <55>公開 昭61-73200

<22>出願 昭59(1984)10月19日 <43>昭61(1986)5月17日

<72>考案者 大西良隆 奈良県生駒市俵口町693-6

<71>出願人 大西良隆 奈良県生駒市俵口町693番地の6

<74>代理人 弁理士 藤原忠義

審査官 小松正

早期審査対象出願

<56>参考文献 特開 昭54-116905(JP、A) 特開 昭56-119582(JP、A)

<57>実用新案登録請求の範囲

伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取つて伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取つて背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該映像に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。

考案の詳細な説明

本考案は、映像を併用したカラオケ装置に関する。

テレビ受像機などに歌詞や伴奏曲に合せた映像を再生し、かつその下部などに伴奏曲に対応した歌詞を表示する、映像を併用したカラオケ装置は既に公知であり、例えばこのようなカラオケ装置としては特開昭54-116905号等がある。しかし、従来の装置は背景映像と歌詞とを同時にビデオデイスクなどに格納しているから、歌う人が背景映像を選択することは不可能で、背景映像の変化に乏しい難点がある。又、伴奏曲と歌詞との一義的な関係を維持しながら背景映像に変化を与えるものとしては、例えば特開昭56-119582号がある。これは背景映像の一部にテレビカメラで撮像した歌い手の人物像をはめこむことで、背景映像に変化を与えんとするものである.しかしながら、該手法には種々の問題がある。即ち、該方法はもともと歌詞映像が一体化した背景映像の一部に人物像をはめこむものであるから、背景映像を個人が勝手に改したことになり、著作権法上の問題が発生することは必至である。しかもカラオケ装置はバーやクラブ等に設置されて業務用として利用されることが殆とであることを考慮すれば「記手法による背景画像の合成は許可されるべはない。又、上記方法には技術上の問題点も存在する。即ち、歌詞映像は背景映像と完全に一体化している為、歌詞映像だけを背景映像から分離することはできない。したがつて背景映像に人物像を合成しようとするときは、背景映像のうち歌詞映像が表示されている下行部分を残した状態で人物像はめこみ用のエリアを確保して、該エリアにテレビカメラで撮像した人物像をはめこむしかない。しかしながらことような方法では、はめこみ用のエリアの設定管理を正確に行わないと、歌詞映像の上に人物像が重なつて歌詞映像の一部が欠落することがある。又、歌詞映像は常に受像画面の下行部分に存在するとは限らない為、人物像のはめこみに際しては歌詞映像と重ならないように注意する必要がある。

本考案は、著作権法上の問題や歌詞映像の欠落等も発生させずに背景映像に変化を与えることを目的とするもので、歌詞の映像とそれの背景となる映像とを別々の記録媒体に記録媒体に記録しておき、これら記録媒体から歌詞映像と背景映像を別々に取り山して受像機に入力することで、背景映像を任意に選択できるようにした。

本考案の装置は第1図に示すように伴奏音楽とその歌詞を映像として再生する伴奏・歌詞再生装置1と前記歌詞の背景映像を出力する背景映像再生装置2と、伴奏・歌詞再生装置1から出力された歌詞の映像を、背景映像再生装置2から出力された背景映像に重ねるためのミクサー3およびミクサー3から入力された信号に基づいて前記歌詞の映像を背景映像に重ねて表示する受像機4から構成されている。

この装置で使用する伴奏・歌詞再生装置1としては、伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号としてそれぞれ記憶させた磁気テープやビデオテーブ、ビデオデイスク、コンバクトデイスクなどの記録媒体からそれぞれの信号を読み取つて再生する装置等が採用でき、又、背景映像再生装置2としては、背景映像が記録されたビデオデイスクやビデオテーブ等の記録媒体から映像信号を読み取つて再生する装置等が採用できる。伴奏・歌詞再生装置1のスピーカーは受像機4にセツト又は室内の適所に記置する。

この装置は、伴奏・歌詞再生装置1に、それに対応したテープ又はデイスクをセツトし、歌う曲を選定し、かつ背景映像再生装置2にテープまたはデイスクをセツトし、任意に背景となる映像を選定する。すると、伴奏・歌詞再生装置1で再生された伴奏音楽がスピーカーから流れ、一方伴奏・歌詞再生装置1で再生された歌詞の映像信号と背景映像再生装置2から出力された映像信号とがミクサー3に入力され、それらがミキシングされて受像機4に出力され、選定した背景と共に歌詞が映像として受像機4に表示される。

上記のように本考案の装置は、歌詞の映像と背景の映像とを分離して別々の記録媒体に記録し、歌詞の映像信号と伴奏音楽の音響信号を共に伴奏・歌詞再生装置1で再生するようにし、背景映像は背景映像再生装置2から出力させるようにしたから、歌う人が曲を選択すると共に背景映像を任意に選択することが可能である。すなわち、受像機4における背景映像と歌詞とを任意に組合せることが可能で、同じ曲であつても歌う人の好みによつて異なつた背景映像を使用することが可能であり、背景映像をより有効に活用してカラオケを楽しむことができる。そして、本装置においては歌詞映像と背景映像は別々に記録したものを再生時に受像画面上で合成し、背景映像の取り替えは受像画面全面にわたつて行うこととしたから、背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落することもない。又、本装置では背景映像には全手を加えていないので著作権法上の問題が発生することもない。

第2図の例は、伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2の両方にビデオデイスクプレーヤーを使用した例で、それぞれの出力がミクサー3に入力される。同期信号7は、ミクサー3から伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2に共通の信号を入力するようにしているが、伴奏・歌詞再生装置1から背景映像再生装置2に入力することも可能であり、また、背景映像再生装置2から伴奏・歌詞再生装置1に入力してもよい。伴奏・歌詞再生装置1から出力される音響信号はアンプ9を介してスピーカー8から流れる。

この例でも、伴奏・歌詞再生装置1で伴奏曲を、背景映像再生装置2で背景映像をそれぞれ選択することで、受像機4に選択した背景映像と選択した歌詞とが、重ねて表示される。

第3図は伴奏・歌詞再生装置1としてコンバクトデイスクプレーヤーが使用され、背景映像再生装置2としてビデオデイスクプレーヤーを使用した例であつて、これらの例から明らかなように、伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2とは、任意の装置を組合せて使用することが可能であり、使用場所などに応じた装置をうることが可能である。

そして、第3図の例では背景映像再生装置2のビデオデイスクには、映像とバックグランドミュージックが入つている。すなわち、歌を歌つているときは、背景映像再生装置2の出力信号における映像信号のみが受像機4に入力し、スピーカーからは伴奏・歌詞再生装置1で再生された伴奏曲を流し、他方、歌つていないときは、受像機4に映像を表示するとともに背景映像再生装置2に記録されたバックグラウンドミュージックを流すことができ、より装置を有効に使用できる。

以上のように本願考案にかかるカラオケ装置は、伴奏音楽及び歌詞映像が記録された記録媒体と背景映像が記録された記録媒体を別々のものとし、歌詞映像と背景映像は別々に管理して、適宜受像画面全面に及ぶ背景映像をそつくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。しかも本考案のカラオケ装置では背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落するおそれが全くない上に著作権法上の問題発生もないので、本カラオケ装置は業務用カラオケ装置として極めて優れたものといえる。

図画の簡単な説明

第1図は本考案のブロック図、第2図と第3図はそれぞれ異なつた実施例のブロック図である。

1……伴奏・歌詞再生装置、2……背景映像再生装置、3……ミクサー、4……受像機、7……同期信号、8……スピーカー、9……アンプ。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

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手続補正書

平成元年10月31日

特許庁長官 吉田文毅殿

1.事件の表示

実願昭59-158557号

2.考案の名称

カラオケ装置

3.補正をする者

事件との関係:実用新案登録出願人

大西良隆

4.代理人 <〒>533

大阪市東淀川区東中島1丁目20番14号

東口ステーションビル

(5840) 弁理士 藤原忠義

TEL (06)323-4831(代表)

5.補正命令の日付

自発

6.補正の対象

昭和63年7月20日付提出の明細書(以下、明細書と称す)の実用新案登録請求の範囲の欄並びに考案の詳細な説明の欄

7.補正の内容

(1) 明細書の実用新案登録請求の範囲を添付別紙のとおり補正する。

(2) 明細書第4頁第8行目(公告公報第3欄第12行目)に「背景映像」とあるを「背景映像となる動画像」と補正する。

(3) 明細書第4頁第11行目(公告公報第3欄第15行目)、第5頁第1行目(公告公報第3欄第25行目)、第7頁第9行目(公告公報第4欄第29行目)、第8頁第10行目(公告公報第5欄第7行目)に「背景映像」とあるを、「動画像である背景映像」と補正する。

(4) 明細書第5頁第17行目(公告公報第3欄第41行目)~同頁第18行目(公告公報第3欄第42行目)迄に「背景の映像」とあるを、「動画像である背景の映像」と補正する。

実用新案登録請求の範囲

1) 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。

実用新案公報

<省略>

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